『Drスランプ』、『ドラゴンボール』の作者、鳥山明氏が急逝されました。
私自身は、彼の漫画を直に追っかけていたわけではなく、テレビで放映された、『Dr.スランプ アラレちゃん』を最初期*1から最終回まで、『ドラゴンボール』は、悟空が結婚するまでは見ていました。
だからあまり熱心なファンとは言えなくて、漫画版とアニメ版のズレとかもあるから、厳密には鳥山明氏のファンとも言えないのかもしれないけど、『アラレちゃん』に関してはフィルムコミックや、レコードを買ってもらった思い出もあったりするので、大人になってから見方の変わった『アラレちゃん』について、則巻千兵衛「博士」中心に書こうと思います。
28歳という年齢
たしか、物語開始の時点では「28歳、独身」が千兵衛さんの基本スペック。この28歳という年齢、アニメを見ていた時点では「おじさん」*2でしたが、自分が実際その歳になった頃、その妙な実感が分かったような気がしました。もう「若者」という言い訳は世間に通じない、けど、やはり実感としてはそれほど大人になったとも思えない、というか……。*3
千兵衛さん自身、アラレちゃんの級友のピースケやアカネといった中学生を遊びに誘ったりしていて、まだまだ子供気分が抜けていないのかな、とも思います。
Wikipediaひいたら、発明品を売っての収入もあるけど、親の遺産もあるようなことを書いていたので、当時の言い方を使えば「モラトリアム人間」とも言えるでしょう。
そんなモラトリアムな千兵衛さんの人生を一変?させたのが、アラレちゃんを作ったこと。作った理由は明かされていませんし、なぜアラレちゃんを最初からロボットと明かさなかったのかもわかりません。*4
しかし、アラレちゃんを作り、発明品ではなく「年の離れた妹*5」として周囲に紹介した時から、結果として彼には「年少者の保護者」としてふるまわなければいけない、小難しく言えば「自分以外の存在」への「責任」を持つ必要が出てきたといえるでしょう。
さらに、ほどなくして、タイムスリップした先で気まぐれに拾ってきた卵から、「ガっちゃん」という言葉の通じない「赤ん坊*6」の保護者にまでなってしまいます。しかもこの赤ん坊、羽が生えてて飛び回るし、電撃をだしてくるし。
それでも結局、アラレちゃんを通じて、その担任教師である山吹みどり先生*7と出会って恋をしたり、千兵衛さんの人間関係が広がっている面もあるんですよね。結果として山吹先生との恋は(連載中のアレコレなドタバタを経過して)成就し、結婚して千兵衛さんは「独身」の状態を脱していきます。
Wikipediaによれば、最初は千兵衛さんが主人公の予定だったのが、アラレちゃんを出させて主人公にするというのは、担当編集の鳥嶋氏の発案だったそうですが、それは正解だったのではと思います。少年漫画だから、対象は小学校中学年~高校生くらいがターゲットでしょうから、28歳のおじさんが主人公では感情移入しにくいと思うんですよね。かつ、これでドタバタをやるとなると、言ってはなんですが、千兵衛さんがかなりイタい人になってしまうのではないかと思います。
アラレちゃんを主人公にしておけば、対象読者の意識はまずそちらに行くので、感情移入の問題はクリアできます。また、トラブルに関係するにしても、自分の作った発明品ではあるけれど、制御不能な意思を持つアラレちゃんの起こすトラブルに巻き込まれる、というパターンにした方が*8、読者に多少の同情も沸くというものです。また、千兵衛さん自身に、「発明家」という一般的には分かりにくい社会的立場だけでなく、前述した「保護者」という分かりやすい立場を提供することにもなっています。
そして、アラレちゃんの「保護者として」色々な人に関わっていくことで、彼自身が成長しているとも言えるのではないでしょうか。こうして見直してみると、『Dr.スランプ』の主人公は千兵衛さんでもあるといえると思います。
「博士」としては意外と若い千兵衛さん
この当時までの漫画に出てくる「博士」としては、『鉄腕アトム』の天馬博士、御茶ノ水博士、あと、『サイボーグ009』のギルモア博士くらいしかレギュラーメンバー格では知りません。キャラデザインから推定して天馬博士が40~50代くらい、御茶ノ水博士が50~60代くらい、ギルモア博士も50~60代くらいです。千兵衛さんがまだ20代というのは、先行作品の博士たちと比べても、実はかなり若い部類に入ります*9。
実際問題、日本の博士課程を卒業すると最短でも27歳までかかるということで、28歳というのは博士になって間もない歳ということも考えられます。
80年代の日本では、「博士」になるのはまだ凄く狭き門でした*10。文系の話になりますが、修士になってから、博士になるまで20年近く費やした人を知っています。「末は博士か大臣か」という言葉が戦前にはあったくらい、「博士」というのは重い肩書だったのです。
学生運動で荒れた70年代を経て、80年代にレジャーランド化した*11、と言われていた大学の学部課程とは違って、大学院の修士及び博士課程は、完全な研究者の道なので、論文を出したからといって必ずしも通るわけではなく、27歳でストレートで博士になれているとしたら、相当できる人ということになるのではと思います。
無論フィクションの世界ですから、飛び級という可能性もあります。また千兵衛さんの場合、アラレちゃんを含めた工学的発明が多いのでおそらく工学博士ではないかと思いますが、惚れ薬なども作っているので、医学・薬学も修めている可能性も出てきます。
やはり則巻千兵衛博士は天才なのです。
改めて鳥山明氏のご冥福をお祈りいたします。
では。
参考↓
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*1:たぶん一話から見られた訳ではなく、評判になった頃から見はじめたのではと
*2:今はそうでもないと思いますが、当時よりも平均寿命も延びたので……
*3:実際、連載・放映当時はまだ女性は25歳くらいで結婚しなさいという時代で、男性の結婚年齢ももう数年先程度、だったはずですから
*4:制作事情からは「特にない、話の都合」というのが正解でしょうが
*5:連載開始時、千兵衛さんとは15歳違いの13歳という話にしている
*6:金属類かじれるから厳密には乳児ではないのだけど
*7:美人。かつ風呂が壊れた教え子に、自宅のお風呂貸してくれるくらい親切な人
*8:それでも自業自得型のエピソードを結構覚えていますが
*9:とは言っても私が知らないだけで、他に先行作品で若い博士が出ているかも知れないです。
*10:Wikiったら、1991年に制度が変わって、アメリカに倣って博士号が取りやすくなった模様
*11:90年代か、21世紀に入ってからまた厳しくなったようですが