私にとっての最初の「好きな大河ドラマ」
「#このNHK大河こそ最高傑作 」というタグが、X(旧Twitter)上で回っていました。
最高傑作と、人様の作品を評せるほどしっかり見てはいないのですが、私の中で一番最初に印象に残ってるのは、1985年放送の『春の波濤』という、演劇人、川上音二郎(かわかみおとじろう)とその妻貞奴(さだやっこ)、実業家福沢桃介とその妻で福沢諭吉の娘房子、を通じた明治・大正の世相を書いた話です。
NHKの説明ページはこちら。
『春の波濤』について
このドラマが作られた頃、近世(江戸時代)までのネタが尽きた、とスタッフが感じたのか、他に理由があったのか、大河ドラマで近代をやろう、という路線変更をしていまして、その二作目に当たる作品です*1。一作目は『山河燃ゆ』というアメリカ日系人をテーマにした話で子供心によくわからず、その前の「これで時代物は終わり」という覚悟で作られたらしい、『徳川家康』は信長役の役所広司さんカッコいい、くらいしか理解できませんでした。
で、この『春の波濤』は、前述の四人のうち、川上音二郎夫妻を中心に見ていました。音二郎(演:中村雅俊)が面白いやつで、好きでした。演劇人と言い条、初めは政治運動の一環として始めているのですよね。オッペケペー節とか。歌舞伎や能・狂言などの伝統演劇ではなく、今のテレビドラマにも通じていく、近代演劇のパイオニアを大河ドラマにする、というのもなんか入れ子構造みたいにも感じます。
あと音次郎は福沢諭吉(演:小林桂樹)の元に書生みたいな形で世話になるのですが、そこで知り合った別の書生(桃介だったのかな……そうでない記憶も)が、福沢の蔵書を一冊売り飛ばして、お饅頭かなんか買って食べちゃって。それで、福沢から呼び出しを受けた音二郎が、その件で呼び出されたと思い込んで(本当は別件で、叱るつもりもなかったような)、友達をかばって、自分が本を盗んだと言い、福沢家を出て行ってしまうとことか。
あとは貞奴(演:松坂慶子)と母の関係。貞奴の家は、いわゆる芸者置屋で、貞奴はそこの養女なのですが、養母との仲は良くて。なのに、桃介(演:風間杜夫)が、自分の郷里で芸者に売られてボロボロになって帰ってきた人の話をしたせいで、母親と貞奴の仲がぎくしゃくしてしまうところとか。
ちなみに、史実の音二郎が海外公演をしていた関係上、海外ロケ*2なんかもしています。お金あったのですね。この頃は。
これは前作の『山河燃ゆ』からそうだったようですが、動乱を直接左右する政治家等ではなくて、動乱の中を生きていく人達の話という印象でした。
かつての幕末の動乱の中、志士や幕吏として生きた伊藤博文や福沢諭吉は、音二郎や貞奴に物を教えサポートする親切なおじさん?*3的ポジションで、もう主人公たちは直接は明治という時代からしか知らない。そんな話ですね。*4
しかし、私にとっては楽しかったこのドラマ、意外なところからケチがついてしまいます。脚本は、杉本苑子氏の小説をもとにしていたのですが、「私の書いた貞奴の伝記も参考にしてるはず」と、別の小説家から訴えられてしまったのです。(『春の波濤』事件)。WikipediaによるとNHK側が勝訴したことになっているのですが、NHKオンデマンドでこのドラマの総集編のページを見ると、「文化庁裁定申請中(2019年7月24日申請)」と書かれているので、まだ何か尾を引いているのかもしれません。
前作の『山河燃ゆ』がアメリカ放送時に、題材にした当の日系人たちから抗議を受け、放送中止に追い込まれたのに続いてのご難続きに、「近代は色々難しい」とNHKのドラマ制作部門が考えたのか、三作目の、架空の女医さんを主人公にした『いのち』を最後に、大河ドラマは近代路線を断念、『いのち』の次の作品は時代劇路線に戻り、『独眼竜政宗』が大喝采とともに迎えられることとなります。確かにこの作品は傑作ではありますが、高視聴率の背後には、この三年間の近代路線自体に不満を持っていた分のカタルシスもあったのかもしれません。
近代路線から時代劇路線への変更に取り残された私
しかし、世間の評判はともかく、理解力がやっと備わってきたところで見た『春の波濤』は、私にとって一つのバロメーターになってしまい、私は似たような性質を持つ大河ドラマを求めることになります。
一つは「お祭り男」がいること。
もう一つは「なるべく戦争などにリーダーとして主人公が関わる描写がないこと」。
一番目はともかく二番目はもう、大河ドラマの条件として無茶苦茶困難な条件であると自覚せざるを得ません*5。別に戦国大名やら政治家に恨みがあるわけじゃないけれど、割と主人公に感情移入するタチ*6だったので、「別に恨みがあるわけでもない相手を、時として殺す決断をせねばならない」シュチュエーションが苦手で。例に挙げれば『独眼竜政宗』の、政宗の母、義姫の政宗暗殺未遂とそこから来る政宗の弟殺しとか。
そういう訳で私に合う大河というのはなかなか求めづらいし、だからといって、NHKに文句を言える立場ではない、という感情をいだきながら去年の『どうする家康』騒動をじーっと横目で見てました。
帰ってきた近代大河『いだてん』
それはともかく、そんな私にフィットする大河が、2019年の『いだてん』でした。東京五輪に合わせてか、政治家とも深く関わりはするものの、そこからは一歩引いた位置にいる主人公(金栗四三、田畑政治)、五輪という「お祭り」そのものをめぐる話。それに付随する女子スポーツから見た、女性と社会の問題……。
女子スポーツ(と女子教育)の部分は特に、『春の波濤』と重なって見えたりもしました。
そして『徳川家康』から30年経っても、嘉納治五郎役の役所さんはイケメンでした。*7
2020年(コロナ延期で2021開催)の東京五輪には反対の立場でしたが、このドラマは好きでした。
『春の波濤』から約30年くらい待ったので、私にフィットする次の大河が来るまで、あと30年はかかるのかもしれません。
では。
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*1:その代わり、大型時代劇は新大型時代劇として、水曜に放送されていました。大河ドラマ - Wikipedia
*2:アメリカではスタッフのみで、フランスはキャストの中村雅俊氏、松坂慶子氏等込みで
*3:実在の福沢諭吉はかなり厳しい性格だったようですし、劇中でも伊藤博文は貞奴に対し、下心ありなんですけどね。
*4:音二郎が「俺は小学校ちょっとかじっただけ」と言うシーンがあったのですが、逆に言えば学制が発布された後の時代の子ということ。
*5:はっきり言って、終わってる
*6:最近はそうでもないですが
*7:もっとも、ドラマの中のお祭り男というか、ややお調子者なノリは彼を敬愛する人々には不評だったという声も聞きましたが。